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2005/05/18

(藤代 裕之@ガ島通信)

「あんたらもうええわ、社長を呼んで」などと、記者会見場で声を荒げてJR西日本の社員を罵倒していた記者が週刊誌に取り上げられ、所属する新聞社が「不適切発言」をおわびする事態に発展しました。

謝罪記事を読むと『「日本新聞協会の新聞倫理綱領」に則り取材するように指導してきた』などとなっていましたが、思わず「ほんとうか?」と突っ込んでしまいました。本当に「日ごろの指導」なんてあるのでしょうか…(文章が記者個人に責任を押し付けるかのような内容で、管理職としての責任が感じられなかったのも疑問です)。

倫理綱領には、『記者の任務は真実の追究である。報道は正確かつ公正でなければならず、記者個人の立場や信条に左右されてはならない』、『人間の尊厳に最高の敬意を払い、個人の名誉を重んじプライバシーに配慮する。報道を誤ったときはすみやかに訂正し、正当な理由もなく相手の名誉を傷つけたと判断したときは、反論の機会を提供するなど、適切な措置を講じる』(日本新聞協会HPより抜粋)などとあります。

よくわからない段階で事故原因を書き散らし、感情的なJR西日本バッシングや運転手のエピソード紹介などを連日繰り広げていた今回の報道は「真実の追究」や「個人のプライバシーへの配慮」から遠く離れています。

業界内には「関西(大阪)ジャーナリズム」という言葉があるほどで、他地域に比べてえげつない、センセーショナルな報道が特徴とされています。東京などでは言葉の感じから「罵倒記者」を特別な存在ととらえている人もいるようですが、関西ジャーナリズム圏の端っこを体験した私からすれば「いるなー、あんな記者」という程度でした。

他の記者の質問も「詰問調」であったと15日付の毎日新聞(大阪版)が伝えていますし、過去を振り返ればO-157や鳥インフルエンザ、雪印などの報道でも同じような記者会見や取材が行われていました。

今回、問題となったことでマスコミに対する目が一段と厳しくなっていることを感じます。一部の社からも「自省」とみられる原稿も出始めていますが、企業や業界の風土というものはそう簡単に変わるものではありません。ゴルフコンペの中止を呼びかけた社員が少なかったことでJR西日本の組織体質が非難されていましたが、冷静な報道をしようと声を上げたマスコミ関係者は何人いるのでしょう。「物言えぬ組織」はマスコミも当てはまります。

事件・事故報道の主役となるのはサツ担(警察担当)と呼ばれる社会部の記者たちです(規模が大きければ社会部遊軍が応援。官庁や政治家が絡んでいれば政治部が、企業の場合は経済部などがサポートします)。サツ記者や社会部出身のデスクには、馬力はある(中で紹介した「非公式情報をたくさん取れる記者」)のですが、凄惨な事故現場写真や記事を「酒のあてに」して飲んでも心が痛まない、「人の不幸で飯を食っているのだ」と開き直るようなタイプが必ずいます。

そして、大きな事件・事故になると彼(彼女)らが異様なテンションで張り切り、暴走し始めます。周囲は「仕方ない(ブレーキをかけた人が怒鳴られたり、怒られたりするのを見て、だんだんとあきらめる人が増えてくる)」と沈黙するようになり、報道姿勢や内容もセンセーショナルになっていきます。「ネット社会では声の大きなものが勝つ」と主張する人がいますが、これはマスメディア内でも同じです。

この暴走を「抜かれること」「特オチ(あるニュースを社はすべて書いているのに、自社だけが掲載しない)」の恐怖がブーストします。デスクは、競合する新聞社よりも、派手な写真、泣ける記事、目を引く見出しを求めます。公平・公正な報道、品位など関係ありません。「抜かれなければいい」のです。現場記者には、何でもいいから新しいことを見つけて書くように求め、ニュースは拡大し、拡散していきます。

「どうしてこんなことまで書く必要があるのか?」、「なんか本論とずれてきているぞ?」と思う記事はこうして生まれます。そして、ある日、ぱたりとニュースが扱われなくなります。他の社が扱わなくなれば、潮が引くように「撤収」。ニュースは消費され、終わっていくのです。

「クライマーズ・ハイ」という地方紙を舞台にした小説があります。飛行機墜落を取材する記者たちは、事故原因が隔壁破壊であることをつかみます。大スクープのチャンスを前に、記者たちは口々に叫びます。『やろう!』、『やりましょう! 世界に向けて』。しかしデスクは『はっきりと事故原因だと認めたわけではない』、『飛ばしには、該(あた)らない。明らかに書き得の部類だ』と躊躇します。そして遺族の姿を思い浮かべます。『遺族だ、真実を知りたがっているのは「世界」ではなく、遺族だった。確信の持てない事故原因…』。結局、スクープ記事は載らず、大手紙に抜かれてしまいます。

私は、このデスクがとった行動を正解と言い切る自信はありません。知り合いの社会部記者は「小説の世界だけのきれいごと。スクープをみすみす逃したデスクはバカだ」と言っていました。現実的にはそうでしょう。自分がこのデスクの立場であれば、テンションが上がり「迷わずスクープを打っていた」かもしれません。スクープを打つチャンスがあったにもかかわらず、他社に抜かれたとなれば、非常に苦しい立場に追い込まれます。保身を考え、小さな扱いでとりあえず記事を載せておくという判断に逃げたかもしれません。

間違った報道よりも、抜かれるほうが問題になるという、マスメディアの構造が見直されない限り、今回のような報道は永遠に続きます。罵倒記者問題とJR西日本の事故報道が、この構造を見直すきっかけになればいいのですが…。難しいかもしれません。

参考となる書籍を紹介しておきます。「クライマーズ・ハイ」(横山秀夫著・文藝春秋)。

【追記】 読者の方から文中の間違いをご指摘いただきました。ありがとうございます。新聞倫理「要領」から「綱領」に訂正いたしました。

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藤代 裕之@ガ島通信

元地方紙記者。1973年生まれ。血液型B型。大学卒業後の1996年に新聞社入社。司法・警察担当、支局、地方部、文化部を経験。2005年3月末退社。 新聞社では、事件事故、漁業補償交渉や合併・地方自治などを取材する一方、中高生向け紙面のリニューアルを担当し、「紙」媒体の価値と限界を認識。2004年9月にブログ「ガ島通信」をスタートする。既存メディアの問題点と意識改革、新しいメディアと参加型ジャーナリズムについて議論している。

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